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東京地方裁判所 昭和30年(レ)108号 判決

控訴人 山本猛夫

被控訴人 三島徳七

右代理人 盛川康

主文

原判決を取消す。

本件を東京簡易裁判所に差戻す。

理由

まず原審における口頭弁論期日の呼出及び訴状副本の送達が控訴人に対して適法にされたかどうかについて考えてみるに、成立に争いのない乙第一号証から第三号証までと被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、本件原審裁判所である東京簡易裁判所が控訴人に宛て、昭和二十九年十二月十一日午前十時の本件口頭弁論期日の呼出状、答弁書催告状及び訴状副本在中の封書一通を郵便送達の方法で発送したところ、同年十一月十七日神田郵便局の集配員である訴外小林英治がこれを控訴人の肩書住所地に持参したが、控訴人不在のため正木好子が控訴人の同居人として受領したこと及び同裁判所の同三十年一月三十一日午前十時及び同年二月二十八日午前十時の各口頭弁論期日呼出状の在中した封書二通が夫々同二十九年十二月十六日及び同三十年二月四日控訴人の肩書住所地に同局集配員訴外高橋亀次によつて配達されたが、控訴人不在のためいずれも右正木が同居人として受領したこと(乙第二号証には三島の受領印が押捺されているけれどもこれは被控訴人本人尋問の結果によれば、同訴外人が実父である被控訴人の印を使用して受領したと認められる。)がそれぞれ認められる。そうすると右各書類が控訴人に直接交付されたものでないことは明らかである。

次に右正木好子に交付してなされた送達が民事訴訴法第百七十一条第一項所定の同居者に対する送達として適法かどうかを検討すると、被控訴人本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合せ考えると、被控訴人はその所有の本件建物のうち階上にある五室と階下にある二室を控訴人の外五名のものに賃貸し自らは階下玄関脇に居住していること、右正木は被控訴人の子供で右建物の階下に住み、印刷会社に勤務している者であること右各送達のあつた当時即ち昭和二十九年四月頃から控訴人は引き続いて右室を留守にしており、同人の内縁の妻も一ヵ月に一回位しか右室に立寄つて居らず、右正木が受領した封書三通は被控訴人が預つて、控訴人が帰室して五、六日経過した昭和三十年四月二日頃同人より控訴人に手渡されていること、当時右建物の家主で且つ貸室事務の管理をしていた被控訴人すら控訴人の帰室する予定の時期もその行き先も知らなかつた等のことが認められ、又これらの事実から右建物内では各賃借人が夫々独立して生活をしていることも覗われるのである。右認定に反する証拠はなにもない。ところで前記法条にいう同居人とは名宛人と共同生活をする者を指し、たとえ同一建物内に居住する者であつても生計を異にし、独立した生活を営んでいる者の如きはこれに入らないと解すべきところ、前記認定の事実によれば、正木好子は控訴人とは同一建物内に居住しているが、これと生計を異にし、独立した生活を営んでいる者であることが明かであるから、右正木が前記法条にいう控訴人の同居者といい得ないことは多言を要せずして明かである。尤も被控訴人本人尋問の結果によれば、本件建物の各賃借人に対する郵便物は集配員が各室にまでゆかないで管理人の仕事をしている被控訴人が通常は代つて受取り、被控訴人が留守のときは右正木が受取ることがあることは認められるけれども、通常の例がそうだからといつて控訴人に宛てた訴訟書類をその訴訟の相手方である被控訴人の娘において控訴人の同居者として送達を受ける資格を有しないことは双方代理の精神から当然といわなければならない。

そうすると前記各送達はいずれも不適法で、控訴人に対する本件訴状の副本及び原審各口頭弁論期日の呼出状は右によつては送達されなかつたことに帰する。ところで前記認定のとおり訴状の副本及び各口頭弁論期日の呼出状は昭和三十年四月二日頃被控訴人から控訴人に手交されたことが認められるから、この手交の時にその送達が為されたということができるが、本件記録を調査すると原審口頭弁論期日は控訴人不出頭のまま同年二月二十八日実施され、被控訴人代理人の弁論をきき即日終結となつたことは明らかであるから右の口頭弁論期日の当時には未だ控訴人に対して本件訴状の副本も当日の口頭弁論期日呼出状の送達もなかつたときであつて、従つて原審訴訟手続は右口頭弁論期日に控訴人に対する訴状及び期日の呼出なくして為された違法があり、右口頭弁論期日に基いて為された原判決は結局不当に帰し取消を免れないとともに、事件についてなお弁論をなす必要があると考えるので、民事訴訟法第三百八十六条第三百八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯山悦治 裁判官 岩野徹 井関浩)

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